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新型コロナウイルス感染症後に出る咳

目次

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新型コロナ後の咳とは?

新型コロナウイルスの罹患後症状は、Long COVIDとも呼ばれ、感染後3か月以上のあいだ咳、息切れ、疲労、脳霧などの症状が続く状態をさします。この中でも咳は最も代表的な症状で、多くの方が悩まされています。

新型コロナウイルスにかかると、どのくらいの方が咳が出て、そのくらい続くのでしょうか?日本のデータでは、新型コロナウイルス感染後3ヶ月時点で咳が出ている人は約18%程度、1年後まで咳が継続している人は5%程度であったという報告があり、けっこう多くの方が咳が続いていることが分かります。

新型コロナ後の咳とは?

新型コロナウイルス感染症後に咳がひどくなる、咳が続くリスクの高い人は以下のようなものが報告されています。発症時に酸素投与やICUに入室したなどの重症度の高かった方、喫煙歴のある方、下痢・嘔吐などの消化器症状があった方などが挙げられています。そのほかにも喘息を疑うような呼気NO高値のある方や逆流性食道炎の症状がある方などが挙げられており、長引く咳の原因として喘息や逆流性食道炎などの他の病気が混じっていることも推測できます。

新型コロナ後の咳とは?

参考資料:
①厚生労働省HP「新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00402.html
②Respir Res. 2023 Nov 14;24(1):283. Cough and sputum in long COVID are associated with severe acute COVID-19: a Japanese cohort study
https://respiratory-research.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12931-023-02591-3

なぜ新型コロナウイルス感染後に咳が長引くのか?

なぜ新型コロナウイルス感染後に咳が長引くのか?

新型コロナウイルス感染症の後に咳が長引く原因には、様々なものがありますが大きく分けると4つに分類できます。

①咳の感受性が亢進する(Cough Hypersensitivity)

新型コロナウイルスの感染症の後には、SARS-CoV-2が迷走神経系の感覚神経(咳の神経)に直接障害し、神経炎症と神経免疫相互作用を引き起こして、咳の感受性が亢進した状態になっていくと報告されています。

咳の感受性が亢進すると、のどや気道が敏感になり、会話・冷たい空気・におい・笑いなど少しの刺激で咳が出るようになります。

②ほかの病気が顕在化する

新型コロナウイルスの感染症をきっかけに他の病気が顕在化して咳が長引くことがあります。
これは他の風邪などでも同様の現象が見られます。

以下のような病気がわかることがあります。

  • 咳喘息・気管支喘息
  • アトピー咳嗽
  • 上気道咳嗽症候群:後鼻漏、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎
  • 胃食道逆流症(GERD)
  • 肺気腫・COPD
  • 間質性肺炎

これらの病気は、呼気NO検査、肺機能検査、胸部レントゲン検査、胸部CT検査などを実施して診断します。新型コロナウイルスの後遺症と診断する前には、このような検査を行い他に病気がないことを十分に調べる必要があります。

③気道の過敏性が増加する=喘息状態に移行する

新型コロナウイルス感染の急性期を過ぎても「気道過敏性の亢進」が残ると報告されています。この場合は、咳喘息や気管支喘息のようなアレルギー性の炎症タイプになります(好酸球性気道炎症)実際、最近の研究データによると、新型コロナウイルス感染後2か月咳が続く患者さんのうち約82.6%に「気道過敏性の亢進」状態が見られ、実に47.1%の患者さんが新しく気管支喘息と診断されたという報告もあります。このような患者さんでは、気管支喘息の治療薬である吸入ステロイドが効果があります。

④器質化肺炎や線維化へ移行する

新型コロナウイルス感染症後、しばらくしてから器質化肺炎(きしつかはいえん)という特殊な肺炎を発症することがあります。これは免疫の関連する肺炎で、発症頻度は0.05%程度と比較的まれです。通常の肺炎とは異なり抗生剤を使用しても改善せず、重症の場合は経口ステロイド薬を使用することもあります。

器質化肺炎や線維化へ移行する

他にも新型コロナ感染後に、肺の線維化が残るケースも見られます。線維化は肺が硬くなる変化で、①男性、②咳が持続している患者、③リンパ球低値、④肺の過膨張などがあると線維化がみられるリスクが高いと報告されています。新型コロナウイルス感染で入院した患者さんの胸部 CT 検査では、退院 3 カ月後でも約半数で異常所見を認めるというデータもあります。このように新型コロナウイルス感染症後に、画像で見ても肺に後遺症が残ることがあります。

器質化肺炎や線維化へ移行する

どのような検査を行っていくか?

①問診としては以下のような内容を確認します

  • 咳はどのくらい続いているのか?
  • 今までに咳が長く(3週間以上)続いたことがあるか?
  • 風邪を引くといつも咳が長引くか?
  • 痰が多いかどうか、空咳かどうか?
  • 咳の誘因(会話・冷気・香料)はあるか?
  • 症状の変動性はあるか、夜間や早朝に咳が悪化するか?
  • 息苦しさや喘鳴(ゼーゼー・ヒューヒュー)があるか?
  • 症状に季節性があるか?
  • のどのかゆみがひりひりとした感覚はあるか
  • 鼻の症状(鼻水・後鼻漏・くしゃみ・鼻づまりなど)はあるか
  • 胃酸の逆流症状(胸やけ・胃もたれ・呑酸)はあるか
  • 花粉症やアレルギー性鼻炎、アトピーなどのアレルギー病があるか?
  • タバコは吸っているか?

②胸部レントゲン検査・胸部CT検査

新型コロナウイルスによる肺炎がないか、もしくは肺炎後の線維性変化や器質化肺炎がみられるかどうかを確認します。新型コロナウイルスの肺炎では、すりガラス影と呼ばれる淡い影がみられることがしばしばあります(下記画像参照)。そのほかにも、肺気腫や肺がん、肺結核などのほかの病気の可能性はないかどうかを確認するために実施します。

胸部レントゲン検査・胸部CT検査

③肺機能検査(スパイロメトリー)

肺機能検査(スパイロメトリー)

肺機能検査では、主に肺活量や一秒量・一秒率などをチェックして、気管支喘息や肺気腫・COPDの可能性はないか確認します。

④モストグラフ

「モストグラフ」は、呼吸の通りやすさ(気道抵抗)や肺の弾力性(コンプライアンス)を簡単に、そして短時間で測定できる機械です。スパイロメーター(息を思い切り吸って吐く検査)よりも負担が少なく、「静かに呼吸するだけ」で気道の状態を数値化できるのが特徴です。

気管支喘息やCOPDなどの病気では、呼吸抵抗が上昇します。
モストグラフは当院(名古屋おもて呼吸器・アレルギー内科クリニック金山駅前院)でも実施できる検査です。

④呼気NO検査(FeNO)

呼気NO検査(FeNO)

⑥血液検査

新型コロナウイルス肺炎の後に、線維化が起こった場合、KL-6と呼ばれるマーカーが上昇することがあります。また新型コロナウイルス発症初期のKL-6値は、その後の重症度や予後、肺機能障害の程度とも関連していると報告されています。そのほかにも、気管支喘息と診断した場合は、好酸球数や吸入アレルゲン(ダニ・ハウスダスト・ペット・花粉・真菌など)を検査することがあります。

⑦副鼻腔レントゲン・CT検査

副鼻腔炎(蓄膿)による後鼻漏(鼻水が後ろにたれこむ症状)が、長引く咳の原因となります。新型コロナウイルスを含め上気道に感染するウイルスによって、副鼻腔炎が引き起こされます。副鼻腔のレントゲンやCT検査によって、膿がたまっている様子を確認することができます。

副鼻腔レントゲン・CT検査

以上の検査を行っていきます。
主な検査や診断の流れは以下のようになっています。

検査・診断のフォローチャート

検査・診断のフォローチャート

病型別の代表シナリオと治療内容

①気道過敏性が目立つ場合(咳喘息/気管支喘息)

咳喘息や気管支喘息などの気道過敏性がみられる場合は、夜間・早朝の乾性咳、日によって変動性のある咳、冷気・会話で誘発されるような咳が特徴的で、検査では呼気NO高値や血液中好酸球高値などがみられます。
治療としては吸入薬(吸入ステロイド±長時間作用性β2刺激薬)で開始します。気管支喘息で喘鳴や呼吸困難感・低酸素などがある場合は、経口ステロイド薬を短期間併用することもあります。

咳喘息についてはこちら
気管支喘息についてはこちら を参考にしてください。

②逆流性食道炎による咳の場合

逆流性食道炎による咳は、胸焼けや胃もたれなどの消化器症状があり、就寝後に咳が悪化するのが特徴です。治療としては胃薬(プロトンポンプインヒビター)、生活指導(就寝前の4時間以内は食事を食べない、枕を高くして寝る)などが効果的な場合があります。

③咳の感受性が亢進している場合

会話・笑い・冷気・香料で強い発作的な咳が出ます。肺機能検査や胸部レントゲン・CT検査では異常がみられません。吸入薬やリフヌア(ゲーファピキサント)と呼ばれる咳止め薬が効果的なことがあります。特に吸入抗コリン薬は、咳の感受性を抑える可能性が指摘されています。下記の報告では、喘息の患者様で咳が遷延する方に吸入抗コリン薬(スピリーバ:チオトロピウム)を投与すると咳の感受性が改善したことが示されています。

ただし吸入抗コリン薬を主に使用することができる方は、気管支喘息や咳喘息、肺気腫・COPD、慢性気管支炎などの病気と診断されている方になります。

咳の感受性が亢進している場合

参考文献:
Fukumitsu.K. et al. J Allergy Clin Immunol Pract. 2018 Sep-Oct;6(5):1613-1620.e2.
https://www.jaci-inpractice.org/article/S2213-2198(18)30043-6/abstract

④上気道咳嗽症候群

鼻の後ろにたれていくような感覚(後鼻漏感)、鼻閉、くしゃみ、咽頭違和感などの症状が出ます。治療としては抗アレルギー薬(抗ヒスタミン薬)、点鼻薬、鼻洗浄、マクロライド系抗生物質の少量長期投与などがあります。

セルフケア

なかなか病院を受診できない場合は、以下のようなセルフケアを検討してもよいでしょう。

  1. トリガーになるようなものを回避する
    冷気・強い香料・煙・粉塵、長時間の会話、辛い食事を避ける
  2. 副鼻腔ケア
    鼻水が後ろに垂れて咳が誘発される場合、鼻洗浄をする
  3. 胃食道逆流対策
    脂っこい/辛い物・アルコールは控えめ。枕を少し高く。就寝3時間前はあまり食べない。
  4. 室内環境
    室温:寒すぎに注意、湿度40~60%を目安に加湿。

受診の目安

以下のような状態のある場合は、呼吸器内科専門の病院を受診したほうがよいでしょう。

  • 2~3週間以上咳が続く
  • 安静時や労作時の息切れ、血痰、胸痛、体重減少などがある
  • 市販薬で改善しない、夜間咳で不眠、仕事・学業に支障が出ている
  • 気管支喘息・肺気腫・COPD・間質性肺炎などの持病を持っている

よくある質問(FAQ)

ワクチン接種や抗ウイルス薬で“後の咳”は減りますか?

全身的な長期症状のリスクはワクチンで減る可能性が示されますが、「咳」への直接効果ははっきりとしていません。急性期に抗ウイルス薬(ラゲブリオやパキロビットなど)で症状短縮を図る報告はありますが、咳の慢性化予防効果は不明です。重症化予防の観点から推奨されます。

いつCTや専門医の診察が必要?

血痰・胸痛・著明な息切れ・体重減少や咳止め薬に反応不十分、喫煙歴・発熱が続くなどがある場合は早期に胸部CTと専門医での精査が必要と考えられます。

運動はしてもいい?

咳や息切れなどの症状が軽ければ可能です。息が上がる一歩手前の低強度から再開し、体調に合わせて徐々に負荷を上げていってください。ただし無理は禁物です。

院長からのメッセージ

院長からのメッセージ長引く咳はつらく、生活の質を大きく下げます。新型コロナ後の咳は神経の過敏化や気道の炎症が背景にあることが多く、適切な検査・診断と段階的な治療で改善が見込めます。

当院(名古屋おもて内科・呼吸器内科クリニック)では、胸部レントゲン検査・肺機能検査(スパイロメトリー)・呼気NOなどを組み合わせ、安全に、かつ最短距離での改善を目指します。お困りの方は、遠慮なくご相談ください。

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