間質性肺炎は、肺が徐々に硬くなり縮んでいき、酸素を取り込みにくくなる病気です。そのため息切れや動悸、咳などの症状がでます。いわゆる巷で言う「肺炎」は、細菌やウイルスが原因の感染症による肺炎で、間質性肺炎とは全く違う病気です。
間質性肺炎はいろいろなタイプがあり、病気の進行はゆっくりのこともあれば、数週間で悪化することもあります。間質性肺炎は非常に難しい病気ですが、ここでは専門用語をなるべく避け、ポイントを順に解説します。
目次
肺で何が起きている?
健康な肺は、薄い膜(肺胞壁)を通して酸素を血液へ送り、二酸化炭素を出します。
間質性肺炎ではこの肺胞壁が「炎症→修復のやり直し→瘢痕化(線維化)」を繰り返し、壁が厚く硬くなります。例えるなら、柔らかなスポンジが硬いゴムに置き換わるイメージです。やけどをすると軽い場合はきれいに治りますが、ひどい場合はケロイド状になり皮膚が硬くなりますよね。同じように肺も傷が治る過程で硬くなっていくのです。結果として、少し動いただけで息切れ、空咳(からぜき)が続く、深呼吸がしにくい、といった症状が現れます。
間質性肺炎を患っていた芸能人としては、美空ひばりさん、上岡龍太郎さん、八代亜紀さんなどの方がいらっしゃいます。

原因はなんでしょうか?

間質性肺炎の原因は多岐にわたります。以下に代表的な原因について説明します。
①膠原病(こうげんびょう)
膠原病は、自己免疫疾患(じこめんえきしっかん)と呼ばれ、自分の免疫が自分の体を攻撃してしまう病気です。関節リウマチが代表的な病気ですが、ほかにも皮膚筋炎・多発性筋炎、強皮症、シェーグレン症候群などがあります。
これらの病気では、皮膚症状や関節症状と同時に間質性肺炎が見られることがしばしばあります。また間質性肺炎の症状が先行して出てくることもあります。膠原病は血液検査(自己抗体の測定)や症状で診断します。
②過敏性肺炎(アレルギーが原因)
長期間吸い込むことで、肺の奥(肺胞まわり=間質)にアレルギー性の炎症が起こる病気です。
原因物質は多岐にわたり、以下のようなものが代表的です。
- 鳥関連:
ハト、インコ、文鳥、オウム、鶏などの羽毛・フン・皮膚片(羽毛布団・枕も) - カビ(真菌):
湿った家屋・押し入れ・エアコン内部・加湿器・観葉植物の土、腐った草や木材
※日本では夏に家屋のカビで起きる「夏型過敏性肺炎」が有名 - 加湿器や浴室の汚れ:
いわゆる加湿器肺 - 職業性:
農業(干し草のカビ)、きのこ栽培、木工・金属加工、塗料(イソシアネート) - その他:
アロマオイルや超微粒子ミスト機器の不衛生使用 など
血液検査では「KL-6」という値が高値になります。外科的肺生検によって診断する場合もあります。
③薬剤性
飲み薬・点滴などある薬が引き金となります。
以下のような薬剤で起こることが報告されていますが、どの薬でも可能性はゼロではないと理解しましょう。
- 抗がん薬:
ブレオマイシン、分子標的薬(EGFR阻害薬 など) - 免疫チェックポイント阻害薬:
ニボルマブ、ペムブロリズマブ等 - 抗リウマチ薬:
メトトレキサート、レフルノミドなど - 心臓の薬:
アミオダロン など - 漢方・サプリ:
一部の漢方(黄金など)、健康食品でもまれに
参考資料:日本呼吸器学会HP 間質性肺疾患
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/d/

どんな症状に注意?
間質性肺炎の症状は以下のようなものがあります。
- 労作時の息切れ(階段や早歩きで呼吸が苦しくなる)
- 乾いた咳が8週間以上続く
- 指先が丸くふくらむ(ばち指)や体重減少
一つ注意が必要なのが、数日〜数週間で急に症状が悪化し、強い呼吸不全になることがあります。「急性増悪(きゅうせいぞうあく)」と呼ばれており、風邪や気管支鏡などの処置・薬剤投与などが引き金となって起こりますが、原因がよく分からない場合もあります。

診断はどうやってするの?
①診察・問診
間質性肺炎の患者様では、聴診すると捻髪音(ねんぱつおん)と呼ばれるパチパチとした音が聞こえます。特に背中の下のほうで聞こえることが多くあります。そのほかにも、ばち指という所見が指に現れたり、リウマチなどの膠原病が原因の場合は関節腫脹や皮疹が現れます。

②画像検査

胸部レントゲンや胸部CT検査を行います。レントゲンやCTでは、網状影(もうじょうえい)やすりガラス影などのほかに、進行すると蜂巣肺(ほうそうはい)と呼ばれる蜂の巣に似た所見がみられることがあります。
③呼吸機能検査
息を吸う力、肺活量を測定します。硬くなった肺は入る空気の量が落ちます。
④血液検査
KL-6、SP-Dなどの肺線維化マーカー、膠原病の可能性を疑う場合は自己抗体測定(ANA、抗ARSなど)、炎症反応などを評価します。
⑤気管支鏡・病理
必要に応じて気管支肺胞洗浄(BAL)や肺生検を行います。これは主に総合病院などの専門施設で行う検査になります。アレルギー性・自己免疫性・感染性の見分けをつけます(全員に必要ではありません)。
治療:病型に合わせて“効く薬”が違う
A.特発性肺線維症(IPF)
特発性肺線維症は難病に指定されています。数か月から年単位で徐々に進行し肺活量が低下していきます。
治療方法としては以下のものが代表的です。
- 抗線維化薬:ピルフェニドン、ニンテダニブ
⇒進行を遅らせることが目的です(瘢痕を元に戻す薬ではありません)。 - 呼吸リハビリ・在宅酸素両方:息切れの軽減、活動性の維持が目的です。
- ワクチン:インフルエンザ、肺炎球菌、COVID-19 などは重症化予防に有用。
B.膠原病関連の間質性肺炎
- 副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬(タクロリムス、ミコフェノール酸、シクロホスファミド等)などの治療が中心となります。強皮症の間質性肺炎など病態に応じてニンテダニブ併用が選択されることもあります。
C.過敏性肺炎
- 原因抗原を避ける/環境改善が最重要(鳥・羽毛布団・カビ・加湿器・農作業など)。
- 症状や画像に応じてステロイドを短期使用する場合あり。
- 慢性の進行性のタイプもあり、この場合はニンテダニブなども適応となります。
D.薬剤性・職業性
- 原因薬剤の中止、曝露回避が基本です。必要に応じてステロイド薬を併用します。
受診のタイミングとチェックリスト
次のいずれかに当てはまる方は、呼吸器内科への受診をおすすめします。
- 8週間以上、原因不明の空咳が続く
- 階段や坂で息切れが目立つ
- 胸部レントゲン異常(網状影など)を指摘された
- 膠原病の治療中で息切れや咳が増えた
- 鳥やカビ、粉じんに触れる環境がある
院長からのメッセージ
間質性肺炎は、咳や息切れといった症状が徐々に進行する病気です。風邪や気管支炎と間違えられることも多く、早期発見が難しいといわれています。しかし、適切な検査と診断を受けることで、進行を抑える治療につなげることができます。
当院では、胸部レントゲン検査・CT検査(本院)や呼吸機能検査などを活用し、患者さま一人ひとりに合わせた治療を行っております。また、最新の知見を取り入れた間質性肺炎の専門的な診療を心がけております。
大切なのは、「咳が長引いている」、「階段で息切れが強い」、「家族に間質性肺炎の方がいる」、このような症状や背景をお持ちの方は、早めに専門医にご相談いただくことです。
患者さまやご家族の不安に寄り添い、少しでも安心して治療に取り組んでいただけるよう、スタッフ一同、全力でサポートいたします。どうぞ安心して当院にご相談ください。
参考資料:
Idiopathic Pulmonary Fibrosis (an Update) and Progressive Pulmonary Fibrosis in Adults: An Official ATS/ERS/JRS/ALAT Clinical Practice Guideline
https://www.atsjournals.org/doi/10.1164/rccm.202202-0399ST
記事作成:
名古屋おもて呼吸器・アレルギー内科クリニック
呼吸器内科専門医・医学博士 表紀仁