「急に胸が痛い」「息が吸いづらい」……
そんなときに疑うべき病気の一つが気胸(ききょう)です。
気胸は、肺に穴があいて空気もれて肺がしぼむ病気です。若い方でも気胸を発症する方は多く、放置すると重症化することもあるため、正しい知識と素早い受診が大切です。ここでは、気胸の症状から診断・治療、日常生活の注意、再発予防を解説します。
目次
気胸ってどんな病気?

気胸は、肺に穴があき空気が漏れて肺がしぼんでしまう病気です。肺は風船のような臓器でなかに空気がたくさん含まれていますが、何らかのきっかけで穴があくと風船と同じようにしぼんでしまいます。
原因としてはいくつかありますが、肺にあるのう胞(ブラ)という袋のようなものが破けてしまうことで発症します。これは「自然気胸」と呼ばれる病気で、10代後半〜30歳代前半の若年男性で、細身・高身長の方に多くみられます。高齢者ではCOPD(肺気腫など)や間質性肺炎が原因となって起こることもあります。
そのほかにも、月経に伴って発症する気胸(月経随伴性気胸)があります。月経開始後48時間以内に発症しやすく、子宮の内膜の組織が肺にできることで月経にともなって発症するといわれています(異所性子宮内膜症)。
気胸を疑う症状は?

典型的には突然の胸痛と息切れです。肩や背中の痛みを訴える方もいます。若い方が、急に胸が痛くなって息苦しいと訴えた場合、気胸の可能性があります。重症の場合では、強い呼吸困難や血圧低下に至ることもあり、これは救急車を要請する対象です。
検査・診断方法

聴診をすると、しぼんでいる側の肺の呼吸音が低下しています。しかし、気胸が軽度の場合は、あまり聴診でははっきりしません。また空気が肺から皮膚のほうまで漏れることがあり(皮下気腫)、首や胸の周りに押すとぱちぱちとした感覚(雪をにぎったような感触)が出ることがあります。
検査方法としては、胸部レントゲン写真で多くは診断が可能です。大きく息を吸った時と大きく息を吐いたときの2枚撮影することで、よりはっきり気胸が分かることがあります。また、胸部CTを行うことで肺のう胞があるかどうか、間質性肺炎などの原因があるかどうか、などがわかります。

治療方法

① 軽症の場合 ⇒ 安静・経過観察
虚脱が小さく症状が軽い場合は特に治療を行わず、安静にして穴が自然にふさがるのを待ちます。早くて数日、長くて数週間程度改善するまで時間がかかります。
② 中等症・重症の場合 ⇒ 胸腔ドレナージもしくは手術治療
胸腔ドレナージ
肺を膨らませるために行います。細いカテーテルや胸腔ドレーンで空気を外へ逃がします。
手術治療
以下のような場合に手術治療を考慮します
- 気胸の治りが悪い場合
- 再発を繰り返す場合
- 両側や血気胸など合併がある場合
気胸の手術治療は、VATSといって胸腔鏡下手術(全身麻酔)で行うことが多く、入院期間は病院によっても異なりますが通常3~5日程度です。
胸膜癒着
薬を胸腔内に注入し、穴をふさぎます。手術適応とならない患者様で行います。

生活上の注意点・再発予防
はじめて気胸(自然気胸)になった方は、約3割は再発します。手術治療(VATS)は再発を低下させます。一方、続発性自然気胸はもともとの病気の影響で再発が多く、約50%に達するとの報告もあります。
気胸の予防方法や生活上の注意点は以下の通りです。
①禁煙
最大の再発予防方法です。喫煙はブラ形成や再発リスクを高め、気胸が発生する可能性が高くなります。
②運動
治癒確認後は通常の運動で問題ありません。ただし治療中は控えましょう。
③飛行機
機内は低圧のため、悪化する可能性があります。レントゲン画像でみて、完全に改善してから3週間以降の搭乗が推奨されています。個別の可否は主治医と相談をしてください。
④スキューバダイビング
気胸になったことのある方は原則スキューバダイビングは絶対に行わない方がよいでしょう。酸素ボンベの圧力で気胸が起こりやすくなり、さらに水中で気胸が起こっても急浮上ができず、悪化のスピードも早いからです。
どのくらいで仕事や学校に戻れますか?
⇒個人差があります。軽症で無治療経過観察の場合、数日から数週間程度改善するまでにかかります。
院長からのメッセージ
胸の痛みや突然の息苦しさで受診され、「気胸(ききょう)」と診断される方は少なくありません。
気胸は「肺に小さな穴が開き、肺から空気が胸の中に漏れてしぼんでしまう」状態です。若い方にも起こりますし、基礎疾患のある方やご高齢の方では症状が強く出ることがあります。
しかし、適切な評価と治療、そして再発予防に取り組むことで、安心して日常生活に戻ることができます。気になる症状があれば、どうぞお早めに受診ください。
参考文献:
① BTS guidelines for the management of spontaneous pneumothorax. Thorax. 2003
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1766020/
② Joint ERS/EACTS/ESTS clinical practice guidelines on adults with spontaneous pneumothorax. ERJ 2024
https://publications.ersnet.org/content/erj/63/5/2300797
記事作成:
名古屋おもて呼吸器・アレルギー内科クリニック
呼吸器内科専門医・医学博士 表紀仁