「痰(たん)に血が混じる」……このような症状が出たとき、多くの方が「もしかすると大変な病気かも…」と不安になります。
たしかに中には重大な病気がかくれていることもあります。ほとんどの場合は様子を見ていると良くなってくるのですが、病院を受診したほうがよい症状や状況について説明したいと思います。そのほかにも、血痰の原因・診断方法・対応・生活上の注意点などについても解説したいと思います。
以下のような症状がある方は参考にしてください。
- 点状の血の混じった痰が出る
- 全体が真っ赤な痰がでる
- 朝に血の混じった痰が出る
- 血痰が続いていて肺がんが心配
- ピンク色の痰が出る
目次
血痰ってなに?
血痰とは、痰(たん)に血液が混じった状態のことを指します。
具体的には、気道や肺から出た痰に、赤色〜ピンク〜茶色などの血液が混ざっているものです。
なお、痰ではなく「サラサラの血液だけ」が咳とともに出る場合は「喀血(かっけつ)」と呼ばれ、より出血量が多かったり、緊急性の高い場合があります。 ほかには吐血(とけつ)は、胃や食道など消化器系からの出血が口から出るもので、おえって嘔吐と一緒に出てきます。
口・鼻・歯茎からの出血する場合もあり、痰に混じった血液に見えても実は歯肉出血や鼻出血が喉に流れ込んだもの、というケースもあります。
なぜ痰に血液が混じるのか?
痰は、細菌・ウイルス・ほこりなどの異物を排除するための気道の分泌液です。
通常、痰自体に血液成分が混ざることは少ないですが、以下のような場合に血が痰にまじり、血痰として観察されることがあります。

血痰が出る原因は多岐にわたりますが、大きく以下の3つの機序に分類できます。
①咳などによって気道の粘膜が傷ついて出血
もっとも頻度が高く、かつ比較的軽度な原因です。風邪、気管支炎、インフルエンザ・新型コロナウイルス感染症などで咳が多く出ると、気道の粘膜が刺激を受けたり傷つき出血します。
また咳による圧力・振動により小さな血管が破れ痰に血液が混じることもあります。この場合、痰に混じる血液の量は少量(点状に少し混じる程度、もしくは線状に少し混じっている程度)で、ほとんどの場合は数日から1週間程度で改善します。また原因となる咳がおさまれば血痰もよくなってくることが多いです。 ただし、発熱が続く、息苦しさがある、血の混じる量が増えていくなどの症状がある場合は要注意です。
②呼吸器病による出血
肺や気道に問題や病気があり、出血しやすくなっている場合です。
以下のような病気が原因で血痰が出る場合は、長期間症状が長引いたり、風邪などをきっかけに血痰を繰り返します。また微熱や体重減少、慢性的な咳などの症状が併せて起こります。
血痰が出る代表的な呼吸器の病気は以下のようなものがあります。
肺がん
気管支・肺胞・血管にがんが進行していると、小さな出血が起きやすくなります。 肺がんの場合、体重減少や痛みなどが出ることがありますが、早期の場合はあまり症状が出ない場合もしばしばあります。
肺結核、非結核性抗酸菌症
肺結核や非結核性抗酸菌症では空洞影が見られ、この空洞の周囲は血管がもろく出血しやすくなります。
空洞を作る肺の病気では血痰などの出血はよく見られる現象です。そのほかに空洞を作る病気としては、肺真菌症(カビ)や肺がんなどがあります。また非結核性抗酸菌症では、気管支拡張を併発することがあり、風邪などをきっかけに出血しやすくなります。

気管支拡張症
気管支が拡張して壁が脆弱になり、痰や分泌物が多く、これが血管を刺激して出血することがあります。
気管支拡張症では、風邪をきっかけにして血痰を繰り返します。病状が進行すると息切れや咳などの慢性的な症状が出ることがあります。

特発性(原因不明)
通常は肺・気管支・咽頭などのどこかに炎症や損傷がある場合に起こりますが、精密検査を行っても明確な原因が特定できないことがあります。このような場合を「特発性血痰(とくはつせいけったん)」と呼びます。
多くは、風邪やインフルエンザ・新型コロナウイルス感染症などによって気道の粘膜が傷ついて出血するなど一過性の要因によるもので、一度限りで自然に止まるケースがほとんどです。ただし、まれに初期には画像や内視鏡で見つからない肺がんや気管支拡張症、血管異常などが背景にあることもあるため、初回発症時や繰り返す場合は胸部CTや喀痰検査など精査が重要です。
肺アスペルギルス症
カビ(アスペルギルス)が肺で問題を起こす病気です。古い空洞(結核後や気腫性嚢胞など)にカビが塊を作り、咳や血痰が出やすい状態となります。抗真菌薬などの薬や手術で切除することがあります。

肺塞栓症
肺の血管が詰まり、それによる肺梗塞で出血を伴うことがあります。そのほかにも急に息が苦しくなってきたり、胸の痛みが症状として起こります。肺塞栓の診断は難しく、胸部レントゲン検査やCT検査でも異常がないこともよくあって、D-dimer検査や造影CT検査によって診断します。
③そのほか(心不全や全身性)
血痰の原因としては、より稀ではありますが以下のようなものもあります。
心不全(心原性肺水腫)
心不全により肺胞・間質に液体が溜まり、「ピンク色の泡状の痰」が出ることがあり、それが血痰に見えることがあります。
肺挫傷
外傷などの外からの物理的な肺の損傷により出血することがあります。
薬剤性
心筋梗塞や脳梗塞の予防で血をサラサラにする薬(抗血小板薬や抗凝固薬など)を多数内服されている方では、薬が効きすぎて出血しやすくなり、血痰が出ることもあります。ただし、もともと気管支拡張や非結核性抗酸菌症などの呼吸器の病気を持っている方に起こりやすいです。
血痰が出たとき「受診すべきか」の目安
血痰を見たとき、すぐに受診すべきか、様子を見てもよいかの判断を助けるため、次のような基準があります。
早めに受診した方がよいサイン
- 血痰の量が多い場合:痰全体が赤い、ティッシュ全体がが赤く染まる
- 血痰が何度も繰り返す・長期間持続している
- 血痰の他に 発熱・息苦しさ・胸痛・体重減少・夜間発汗 などの症状がある
特に喀血(かっけつ)といい、真っ赤なサラサラの血のようなものが出る場合や息苦しさなどがある場合は緊急受診が必要です。
呼吸器内科における検査・診断の流れ

呼吸器内科を受診した際、以下のようなステップで血痰の原因を探っていきます。
①問診・身体診察
症状としては、以下のようなことを問診していきます。
- どんな色の痰か、少し点状に出血が混じる程度か、全体が赤いのか?
- 血痰の回数や量は?
- いつから出ているのか?(数週間異常続く場合は要注意)
- 血痰の回数や量は悪化傾向か?
- その他症状はあるか?(発熱・息切れ・胸痛・体重減少・夜間発汗など)
- 血をサラサラにする薬は内服しているか?(抗血小板薬・抗凝固薬など)
診察では、酸素飽和度(SpO2)の測定、聴診などを行います。
②胸部レントゲン検査・胸部CT検査
胸部レントゲン(X線)や胸部CT検査により肺に病気があるかどうかを確認します。
肺炎、肺がん、気管支拡張症、非結核性抗酸菌症、結核による空洞影、などの可能性をチェックします。出血量が多い場合、胸部レントゲンやCTでは吸い込み像と言って、周囲に血を吸い込んだことによる白い淡い影ができることがしばしばあります。吸い込み像がある場合は、ある程度の出血があったことが推定されます。

③血液検査・喀痰検査
画像検査で出血量が少なく、緊急性がないと判断した場合、血液検査や喀痰検査を行います。胸部レントゲン・CT検査で、粒状影や浸潤影・気管支拡張などの影が見られた場合、特に痰の検査は重要になります。
喀痰検査では、一般塗抹・培養、抗酸菌塗抹・培養(結核・非結核性抗酸菌症の検査)、結核・非結核性抗酸菌のPCR検査などを実施します。肺がんを疑う場合、喀痰細胞診検査を追加することもあります。
血液検査では、白血球・CRP(炎症反応)・血小板・凝固系(PT・aPTT)・T-SPOT検査、MAC抗体検査などを行うことがあります。
④高次医療機関への紹介
画像でさらなる精密検査が必要な場合は、高次医療機関へ紹介いたします。
名古屋おもて呼吸器・アレルギー内科クリニック(金山駅前院)では、名古屋医学医学部附属病院や名古屋市立大学病院などの総合病院と診療連携しています。
高次医療機関では、気管支鏡検査や気管支動脈塞栓術などの追加治療や検査を実施することがあります。
血痰の治療
血痰自体は「症状」であり、根本的にはその原因を治療・管理することが重要です。
以下に一般的な治療・管理の方向性を示します。
①対症療法
トラネキサム酸などの止血剤の内服を行います。非結核性抗酸菌症や気管支拡張症による血痰は少量の場合、安静にして、止血剤の内服で様子を見ます。
また血をサラサラにする薬(抗血小板薬や抗凝固剤など)を内服している場合は、薬を一時的に中止することがあります。
②原因治療
以下のような病気の治療が考えられます。
原因となる病気が改善してくると、血痰も改善してくる場合が多いです。
- 非結核性抗酸菌症:抗菌薬(リファンピシン・クラリスロマイシン・エサンブトール)の内服
- 肺アスペルギルス症:抗真菌薬の内服
- 肺がん:手術治療
③カテーテル治療
出血量が多い場合、血痰を繰り返す場合は、気管支動脈塞栓術と呼ばれるカテーテル治療を行うことがあります。
これは原因となる血管を詰めて止血する方法です。気管支動脈塞栓術後の出血制御率は1年時点で 91%、3年時点で81%という成績が報告されています。
よくある質問(FAQ)
朝に血痰が出るのはなぜ?
朝は一晩かけて気道にたまった痰をまとめて出すため、気管支拡張症などで気管支に炎症があると血が「すじ状」に見えやすくなります。特に気管支拡張症では、朝に痰が多いのが典型です。また、乾燥や咳の刺激、夜の鼻血・後鼻漏が喉へ回って朝に血混じりに見えることもあります。
風邪や強い咳のあとに血が混じるのは普通?
風邪・インフルエンザ・新型コロナウイルス感染症や気管支炎でも血すじ程度は起こりうるとされます。繰り返す・1週間以上続く・他の症状(発熱・息苦しさ・体重減少など)を伴うなら詳しく調べたほうがよいでしょう。
抗凝固薬・抗血小板薬を飲んでいるが、血痰が出た場合どうしたらよい?
これらの薬は出血を悪化させる要因になりえます。自己判断で中止せず、薬剤名と用量を伝えて速やかに受診してください。
院長からのメッセージ
咳や痰に少し血が混じる——そんな症状を経験されると、誰しも驚かれると思います。しかし、「血痰」は単なる風邪の延長ではなく、肺がん・肺結核・気管支拡張症・非結核性抗酸菌症・肺塞栓など、重篤な呼吸器疾患のサインであることがあります。特に喫煙歴がある方、長引く咳が続く方、痰に繰り返し血が混じる方は、早めの呼吸器内科受診をおすすめします。
当院では、胸部レントゲン・喀痰検査などを駆使し、原因を的確に評価することができます。また、名古屋市の肺がん検診や結核検診にも対応しておりますので、ご心配な方はお気軽にご相談ください。
「たまたま」「少しだけ」でも、体からの大切なサインです。私たちは、そのサインを見逃さず、安心して生活できるようサポートいたします。
参考資料:
① 日本呼吸器内視鏡学会「喀血診療指針」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsre/46/6/46_317/_article/-char/ja
② 日本呼吸器学会 Q4.痰に血が混じりました
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q04.html
③ Hemoptysis: Evaluation and Management. Am Fam Physician. 2022;105(2):144-151.
https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2022/0200/p144.html
記事作成:
名古屋おもて呼吸器・アレルギー内科クリニック
呼吸器内科専門医・医学博士 表紀仁