横になると咳が出る原因とは?(呼吸器内科医が解説)
「日中はそこまででもないのに、横になると咳が出る」「寝ようとすると咳き込んで眠れない」――このタイプの咳は、原因がある程度しぼられます。代表は 胃食道逆流症(逆流性食道炎)、後鼻漏(鼻水がのどに落ちる)、喘息(咳喘息を含む)ですが、まれに心不全など緊急性の高い病気が隠れていることもあります。
この記事では、呼吸器内科医の立場から、素人の方にもわかりやすく、「横になると咳が出る」の代表的原因・セルフチェック・家庭でできる対策・受診の目安・医療機関での検査と治療を、最新のデータを踏まえて解説します。
まず結論:横になると咳が出る“よくある3大原因”
- ① 胃食道逆流症
寝ると胃酸や胃内容物が上がりやすく、胃酸の刺激によって咳反射が出ます。
- ② 後鼻漏(鼻炎・副鼻腔炎・アレルギー性鼻炎など)=上気道咳嗽症候群
横になると鼻水がのどへ流れ込み、咳が誘発されます。アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎などで鼻水が増えると起こりやすくなります。
- ③ 気管支喘息/咳喘息
夜間の気道過敏や炎症で、寝入りばなに咳が出やすくなります。夜中や朝方の咳は喘息の重要なサインです。
この3つで多くを占めますが、心不全や感染後咳嗽(がいそう)などでも見られることがあります。

なぜ「横になる」と咳が出やすいのか(メカニズム)
横になることで、体の条件がいくつか変わります。
- ● 逆流が起こりやすくなる:重力が弱まり、胃内容が食道・のどへ上がりやすい
- ● 鼻水がのどへ落ちやすくなる:後鼻漏が増え、のどが刺激される
- ● 夜間は気道が狭くなりやすい:自律神経や気道炎症の影響で気管支がせまくなりやすく、喘息が悪化しやすい
- ● 体液が胸へ戻りやすい:心不全では肺うっ血が進み、咳・息切れ(起座呼吸:苦しくて座る)につながる
このような条件が組み合わさり、横になると咳が出やすくなります。
原因別:症状の特徴とセルフチェック
1) 胃食道逆流症:寝ると咳、のどの違和感
特徴
- ・横になる/前かがみ/食後に咳が増える
- ・胸やけ、呑酸(酸っぱいものが上がる)、げっぷがあることも(ない人もいます)
- ・のどのイガイガ、嗄声(声がれ)、咽頭の違和感
ポイント
- ・上記のような胃酸の逆流症状がない方もいます。
家庭でできる対策
- ・就寝4時間前から食べない(特に脂っこい食事・夜食)
- ・枕を高くする(上半身ごと10〜20cm程度の挙上)
- ・左向きで寝る:左側臥位は夜間逆流を減らす可能性が示されています。
- ・体重管理、アルコール・チョコ・ミント・カフェイン・辛いものの調整(個人差あり)
2) 後鼻漏:寝ると“のどに落ちる感じ”+咳
特徴
- ・のどの奥に痰が貼りつく/鼻水が落ちる感じ
- ・鼻づまり、くしゃみ、目のかゆみ(アレルギー性鼻炎)
- ・顔面痛や濃い鼻汁(副鼻腔炎)
- ・横になると咳が増える、起床時に痰がからむ
エビデンス
- ・日本ではこの後鼻漏による咳が多く、点鼻薬(ステロイド点鼻薬)の治療で症状の改善が期待できることが報告されています。
家庭でできる対策
- ・就寝前の鼻洗浄(生理食塩水)
- ・寝室のホコリ・ダニ対策(寝具カバー、掃除、加湿しすぎ注意)
- ・花粉/ハウスダストが疑わしければ、日中の曝露を減らす(換気や掃除)
治療の基本(医療機関)
- ・鼻噴霧ステロイド、抗ヒスタミン薬を主に使用します。必要により副鼻腔炎治療(抗菌薬など)を行います。

3) 喘息/咳喘息:夜間~早朝に悪化、ゼーゼーがなくても要注意
特徴
- ・夜〜明け方に咳が出る、運動・冷気・会話・香水で誘発
- ・風邪の後に長引く
- ・ゼーゼーがなくても「咳だけ喘息(咳喘息)」があり得る
- ・胸の締め付け感、息苦しさを伴うことも
エビデンス
- ・夜間咳は喘息関連症状として臨床的に重要で、特に夜中の3時に咳が一番増加すると言われています。
家庭でできる対策
- ・喫煙(受動喫煙含む)回避、寝室のハウスダスト対策
- ・…風邪後に悪化しやすい人は、自己判断で咳止めだけに頼らず受診を
治療の基本(医療機関)
- ・吸入ステロイドなどの吸入薬が中心になります。症状が強い場合は、ステロイドの内服薬を追加することもあります。

4) 心不全:横になると息苦しい・咳、起きると楽(起座呼吸)
特徴
- ・横になると咳+息苦しさ、座ると楽
- ・夜間に息苦しくて目が覚める(発作性夜間呼吸困難)
- ・足のむくみ、体重増加、動くと息切れ
メカニズム
-
なぜ心不全で「横になると咳」が出るのか?以下のような理由があります。
-
1) 横になると血液が胸に戻りやすくなる立っている時は血液の一部が下半身に貯留しますが、仰向けになると下半身から心臓へ血液が戻りやすくなり(静脈還流↑)、心臓にかかる負荷が増えます。
2) 心臓がさばけないと肺の血管が“渋滞”する
-
左心不全(左心機能低下)などで心臓のポンプが弱いと、戻ってきた血液を十分に送り出せず、肺静脈圧が上がって肺の毛細血管から水分がにじみ出る。
3) 肺うっ血・軽い肺水腫で咳反射が刺激される
-
肺の間質に水分がたまると、気道周囲がむくみ、気道が狭く感じる・息苦しい・咳が出るといった症状が出ます。夜間はこの変化が強まりやすく、横になると咳・息苦しさ→起き上がると楽という形になります(起座呼吸)。
→ このパターンは早めに受診(息苦しさが強ければ救急)が必要です!
5) 感染後咳嗽:風邪のあとに咳が長引く
特徴
- ・風邪(感冒)のあとに咳だけが残る(発熱など他の症状は改善しているのに咳が続く)
- ・咳の期間は3〜8週間が典型
- ・乾いた咳(空咳)が多いが、痰が少し絡むこともある
- ・自然に改善することが多い一方、咳が8週を超える/息切れ・血痰・発熱が続くなどは詳しい検査が必要
6) 睡眠時無呼吸(OSA):いびき+日中眠い+夜間咳
特徴
- ・大きないびき、無呼吸の指摘、日中の強い眠気などの症状
- ・逆流や上気道炎症を介して咳が関連する可能性があります
- ・CPAP治療によって咳が改善したという研究データもあります
睡眠時無呼吸に関する詳しい記事はこちら
まず家でできる「今夜からの対処法」チェックリスト
原因が確定していなくても、比較的安全で効果が期待できる対策があります。
寝る姿勢・寝室環境
- 上半身を少し起こす(枕を増やすより“上体ごと”が理想)
- 可能なら左向きで寝る(逆流が疑わしい場合)
- 寝室の乾燥対策(加湿は40〜60%目安、加湿器は清潔に)
- 受動喫煙を避ける、香水・芳香剤を減らす
食事・生活
- 寝る3時間前は食べない(逆流対策)
- アルコールは控えめ(逆流・鼻炎・喘息いずれにも悪化要因になり得る)
- 風邪後に咳が長引く体質なら、早めに医療機関へ(咳喘息の可能性あり)
鼻・のどケア(後鼻漏対策)
- 就寝前の鼻洗浄(生理食塩水)
- 寝具(枕・布団)のダニ対策
受診の目安:この症状があれば早めに医療機関へ
すぐ受診(または救急も検討)
- 息苦しさが強い/会話がつらい/横になると息ができない
- 血痰、胸痛、意識が遠のく
- 高熱が続く、強い全身状態悪化
- 足のむくみ・急な体重増加+夜間の咳(心不全の可能性)
数日〜1〜2週間以内に受診
- 2〜3週間以上続く咳
- 夜間の咳で睡眠が保てない
- 市販薬で改善しない
- 喘息・COPDの既往がある/妊娠中/高齢/心臓の病気がある
医療機関では何を調べる?

病院では、問診で頻度の高い原因(後鼻漏・喘息関連・逆流など)を意識しつつ、危険な病気を除外しながら検査を進めます。
一般的には:
- ① 問診:咳が出るタイミング(横になる・食後・運動・冷気)、胸やけ、鼻症状、息切れ、薬剤
- ② 聴診・SpO₂(酸素飽和度)
- ③ 胸部X線(必要あれば胸部CTを実施)
- ④ 呼吸機能検査(スパイロ)/気道炎症(FeNO):喘息・咳喘息の検査
- ⑤ 鼻・副鼻腔評価(必要なら耳鼻科連携)
- ⑥ 逆流評価:症状や治療反応で判断、必要なら専門的検査
- ⑦ 心不全が疑わしければ BNP(血液検査)、心電図、心エコー など
まとめ(この記事の要点)
- 「横になると咳」は 胃食道逆流症/後鼻漏/喘息(咳喘息) が三大原因
- 今夜からできる対策は「就寝前の食事回避」「上半身挙上」「(逆流疑いなら)左向き」「鼻ケア」「寝室環境」
- 息苦しさやむくみを伴う夜間咳は心不全もあり得るため早めの受診
当院では、症状の出方(横になると悪化するタイミング、食後・早朝の咳、鼻症状の有無など)を丁寧に確認したうえで、必要に応じて 胸部レントゲン、呼吸機能検査、気道炎症の評価(FeNO)、アレルギー評価 などを組み合わせ、原因を見極めて適切に治療します。
「咳が続いて眠れない」「市販薬で改善しない」などお困りの方は、我慢せずご相談ください。
記事作成

名古屋おもて内科・呼吸器内科クリニック
呼吸器内科専門医・医学博士 表 紀仁
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