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肺気腫・COPD

肺気腫は、たばこの煙で気道が炎症を起こし息を吐く力が低下することで、息切れ・咳・痰などの症状が続く病気です。現在はCOPD(慢性閉塞性肺疾患)と呼ばれています。長年の喫煙歴がある方で、通勤時の階段や坂道で息切れする場合や、風邪のあとの咳や痰が長引く場合は要注意でCOPDの可能性があります。

ここでは、肺気腫・COPDではどのような症状がでるのか、どのように診断するのか、治療方法などについて解説したいと思います。

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目次

よくある症状チェック

よくある症状チェック

肺気腫・COPDは主にタバコが原因で起こるため、長年の喫煙歴があり以下のような症状がある方は、COPDの可能性があります。

  • 運動時の息切れ(階段で立ち止まる、以前より歩けない)
  • 2か月以上続く咳や痰
  • 風邪をきっかけにゼーゼーしたり、息苦しさが悪化する

肺気腫・COPDは年単位で徐々に進行します。40歳以降になってから病気が判明するケースが多く、初期には階段や坂道での息切れ、咳や痰などの症状が数か月~数年という長期間続きます。進行すると平地で息切れが出て休み休みでないと歩けない、服などの着替えや入浴する際にも息切れがでて日常生活に支障をきたします。

また風邪をひくと症状が大きく悪化し、息苦しさがひどくなったり、ゼーゼー・ヒューヒューといった喘鳴(ぜんめい)症状が出ることがあります(これを「急性増悪(きゅうせいぞうあく)」といいます)。その後も咳や痰が長引き回復まで時間がかかります。肺気腫・COPDの方は、このように風邪をきっかけに症状が悪化して病院を受診し、診断されることがとても多いのです。

症状評価のための問診票としてCAT(COPD Assessment Test)や、息切れの程度を知るための問診票としてmMRCを用います。自己記入式で外来でも短時間で実施できます。当院では、受診毎にCATを用いて患者様の病状を把握するよう努めています。

息切れの程度

原因は?

原因は「たばこ」です。
ほかにも大気汚染も関連していますが、ほとんどの場合は長年の喫煙によって肺気腫・COPDになります。

どのような人が肺気腫・COPDになりやすいのでしょうか?
以下に当てはまるとなりやすいと考えられます。

①喫煙本数が多い

本数が多いほど発症のリスクは上がりますが、同じ本数でも「喫煙期間(年数)」が長いほどリスクはより強く上がるといわれています。1日の喫煙本数×年数が重要で、この数字が10上がるごとに、肺気腫・COPDの発症リスクが1.36倍になります。

②喫煙開始年齢が早い

15歳未満で喫煙を開始すると、肺気腫・COPDの発症リスクが高くなります。肺機能は思春期〜若年成人(概ね18–26歳前後)でピークに達します。喫煙を15歳以下で始めると、この成長期の肺機能増加がにぶってしまい、成人期の到達レベルが下がるからといわれています。

診断の流れ

診断の流れ

①肺機能検査(スパイロメトリー)

肺気腫・COPDでは、息を吐く力が低下します。息を吐く力は、肺機能検査で一秒率や一秒量を測定することで分かります。肺気腫やCOPDでは、一秒率<70%が診断の基準になります。重症度は一秒量で判断します。

肺機能検査(スパイロメトリー)

フローボリュームカーブは、息を大きく吸って吐いたときの息のスピード(流速)をグラフにしたものです。肺が健康ならきれいな山型になり、COPDや肺気腫があると形がゆがむため、呼吸の異常が一目で分かります(下記図参考)。一秒量や一秒率と同時に、フローボリュームカーブもCOPDや肺気腫を診断するための重要な検査項目になります。

肺機能検査(スパイロメトリー)

②胸部レントゲン検査・胸部CT検査

肺気腫・COPDの方では、胸部レントゲンで肺が通常よりも広がって見えることがあります(過膨張)。そのため横隔膜が平らに見えたり(通常はドーム型)、下に下がって見えます。しかしながら、これらの異常は病気が進行しないとみられません。

また胸部レントゲンを実施する目的は、「他の病気がないか?」を調べることにあります。
肺気腫やCOPDと同じような症状が出る病気として、

  • 慢性心不全
  • 気管支拡張症
  • びまん性汎細気管支炎
  • 気管支喘息

などがあり、これらの病気の可能性がないかどうかを胸部レントゲンで検査します。

胸部CTでは、肺がスカスカになって見える気腫化(きしゅか)といった所見が見られることがあります。

胸部レントゲン検査・胸部CT検査

参考論文:
JAMA. 2011 Oct 26;306(16):1775-81.
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/1104554

急性増悪って何?

COPD患者で14日未満を目安に症状が悪化し、短時間作用型気管支拡張薬の追加、全身ステロイドや抗菌薬の導入などの治療強化を要する状態をいいます。GOLDの増悪歴は治療選択の中核で、**過去12か月に「中等症2回以上」または「重症(入院)1回以上」**でハイリスクと扱います(近年、この閾値の見直しを検討する報告も)。

治療方法

治療方法は

  1. 吸入治療
  2. 内服治療
  3. 注射治療:デュピクセント
  4. リハビリテーション
  5. 禁煙外来
  6. ワクチン
  7. 在宅酸素療法

などがあります。軽症の場合は、まず吸入治療や禁煙から、悪化する場合は症状が強い場合は内服やリハビリテーション、場合によっては在宅酸素療法を行います。

①吸入治療

息切れや咳・痰などの症状がある場合、まず吸入の気管支拡張剤を開始します。肺気腫・COPDでは、気管支が狭くなってくるため気管支拡張薬の吸入が効果があります。吸入薬により息切れの改善、咳や痰の改善、肺機能の改善、急性増悪の低下、などの効果が期待できます。

吸入薬には吸入気管支拡張薬と吸入ステロイドの2種類あり、さらに気管支拡張薬には、主に2種類あります。吸入抗コリン薬と吸入β刺激薬です。

1,吸入抗コリン薬

最も一般的な気管支拡張薬です。咳や痰・息切れの症状を改善するだけではなく、肺機能や急性増悪の低下などの効果が期待できます。緑内障(特に閉そく隅角緑内障)があると使用できません。また前立腺肥大による排尿障害を悪化させる恐れがあります。スピリーバレスピマットやエンクラッセエリプタなどの吸入薬があります。

2,吸入β刺激薬

気管支拡張薬の1種で、抗コリン薬との配合剤としてよく使用されます。β刺激薬の副作用としては、頻脈・動悸、手の震え、足がつる、などが知られています。
抗コリン薬との配合剤としては、スピオルトレスピマット、アノーロエリプタ、ウルティブロブリーズヘラー・ビベスピエアロスフィアなどがあります。ガスタイプ(pMDI)から、粉タイプ(DPI)まで様々あり、患者様にあったものを選択します。

吸入β刺激薬

3,吸入ステロイド薬

吸入ステロイド薬は、以下のような場合に、吸入気管支拡張剤に加えて使用することを考慮します。

  • 増悪が頻回にある(年に2回以上の増悪、もしくは年に1回以上入院)
  • アレルギー炎症がある(好酸球高値、呼気NO高値など)
  • 気管支喘息の合併がある

このような状態の患者様では、吸入ステロイドを正しく使用できれば、急性増悪の回数を減らし肺機能を改善させる効果があります。
現在は3種類(吸入抗コリン薬+吸入β刺激薬+吸入ステロイド薬)がすべて配合されている吸入薬が使用できます。SITT(Single Inhaler Triple Therapy)と呼ばれており、1本の吸入薬で3種類すべて吸入できるため吸い忘れが少なくなるといわれています。

このような吸入薬には、テリルジー100エリプタやビレーズトリエアロスフィアなどがあります。

②内服治療

基本は吸入による治療ですが、内服治療も並行して行うこともあります。

テオフィリン製剤

テオフィリン製剤は、気管支をひろげ、炎症を抑える作用があります。ただし、血液中の濃度が高くなると、吐き気やふるえ、動悸、頭痛、不整脈などの副作用が出ることがあるため注意が必要です。

マクロライド少量療法

増悪が頻繁にある場合は、マクロライド系の抗生物質(クラリスロマイシン・エリスロマイシン・アジスロマイシン)の併用を考慮します。

③注射治療:デュピクセント

注射治療:デュピクセント

デュピクセント(デュピルマブ)はアレルギー性炎症(血中好酸球高値など)があるCOPD患者さんに有効な新たな治療薬になります。吸入3剤(ICS/LABA/LAMA)を適正使用しても年2回以上の増悪を繰り返す成人で、増悪抑制と肺機能・症状の改善が期待されます。用法は通常300mg皮下注を2週間ごとに皮下注射(自己注射)します。

対象となる患者様は、

  • 成人のCOPDで、吸入3剤(ICS/LABA/LAMA)による治療を行っても増悪が頻回にある
    (過去12か月に中等度~重度増悪が≥2回、または入院歴がある)
  • アレルギー性炎症(2型炎症)がある:血中好酸球数≥300/µLや補助所見としてFeNO高値、喘息合併などがある

です。当院でも上記のような患者様にはデュピクセントによる治療を行っています。

④リハビリテーション

有酸素運動や下肢の筋力訓練・呼吸法(口すぼめ呼吸・横隔膜呼吸)、さらには栄養指導のを行うことで、息切れ・運動耐容能・QOLを改善し、入院や増悪を減少させます。

⑤禁煙外来

禁煙はCOPDの病気の進行を遅らせ増悪を減らします。また禁煙すると咳をしている方の割合が減ることもわかってます。下記のデータでも禁煙した1年後には咳をしている人が1割程度なのに対して、喫煙している人は7割程度咳をしています。当院は保険適用の禁煙外来に対応していますので、禁煙を本気で考えている人はぜひ一緒に頑張りましょう。

禁煙外来のページはこちら

禁煙外来

⑥ワクチン

以下がCOPDの方に接種を推奨するワクチンです。海外のガイドラインでも接種を推奨しています。

1,インフルエンザワクチン

できれば毎年接種しましょう。インフルエンザワクチンはCOPDの方の急性増悪を減らす。入院・死亡リスクも低下することが多数の研究でも示されています。特に高齢者ほどその効果が大きいとされています。

2,肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス・プレベナー・キャップバックスなど)

日本では65歳の定期接種(自治体助成対象)となっています。60~64歳の一定の基礎疾患のある方も対象です。

3,RSウイルスワクチン(アレックスビー)

RSウイルスは気管支炎や上気道炎を引き起こす代表的なウイルスです。子供だけでなく大人でもかかります。RSウイルスの感染をきっかけにして急性増悪を起こすことを予防する目的でRSウイルスワクチンを投与します。

4,帯状疱疹ワクチン(シングリックス)

海外のCOPDのガイドラインでも帯状疱疹ワクチンの接種が推奨されています。これは、COPDの方は帯状疱疹の発症リスク・重症化リスクが高く、帯状疱疹そのものが呼吸器症状の悪化(急性増悪)を引き起こす可能性があるためです。そのためワクチンによる予防のメリットが非常に大きいのです。

ワクチンのページはこちら

⑦在宅酸素療法

在宅酸素療法が適応となる方は、以下の通りです。

  • 動脈血酸素分圧が、55mmHg以下(酸素飽和度が 88%以下)の場合
  • 動脈血酸素分圧が、55mmHg~60mmHgであれば、睡眠時や運動時に低酸素血症になる場合

在宅酸素療法の適応になるかどうかは、動脈血液ガス検査を実施する必要があります。(動脈血酸素分圧を計測するため)また在宅酸素療法が高額になるため、身体障害者(呼吸機能)の申請が可能かどうかを検討します。身体障害者3級以上では、医療費の負担が大幅に軽減されます。

合併症と併存症の管理

肺気腫・COPDは合併症の多い病気です。以下が代表的な合併症です。

  • 心疾患:高血圧・虚血性心疾患・不整脈
  • 骨粗鬆症
  • うつ・不安障害
  • 糖尿病
  • 肺高血圧
  • 肺がん
  • 気管支喘息
  • 逆流性食道炎

これらの合併症がある場合は、並行して治療を行っていくことが重要です。

身体障害者認定を受けられる?

肺気腫やCOPDの方は、病気が進行すると身体障害者認定を受けることがあります。3級以上に認定された場合、医療費の免除・減額、税金の減額、公共交通機関などの割引などの支援を受けることができます。

くわしくはこちら

よくある質問(FAQ)

COPD・肺気腫は治りますか?

COPDは完治が難しい病気です。一度失った肺機能は戻りませんが、残った肺機能を有効に活用できるよう吸入薬・禁煙・リハビリなどで進行を抑え、症状を改善し増悪を減らすことができます。

加熱式たばこなら大丈夫?

加熱式でも有害物質の曝露は残ります。

どの吸入薬が自分に合う?

症状・増悪歴・好酸球数・併存症(喘息の有無)などで変わってきます。手技の得手不得手も重要で、当院では外来で吸入指導を行っていますので、患者様の状態を見ながら吸入薬の選択と練習を行います。

院長からのメッセージ

院長からのメッセージCOPD・肺気腫は、早期に適切な治療を行うことで、症状を軽くし進行を抑えることができる病気です。「年齢のせいかな」「タバコを吸っていたから仕方ない」と思い込み、受診が遅れてしまう方が少なくありません。

当院では、呼吸器専門医による丁寧な診察と、レントゲン・呼吸機能検査などを組み合わせ、患者さん一人ひとりに合った治療をご提案しています。「息苦しさが前より楽になった」「階段が登りやすくなった」と感じていただけるよう、スタッフ一同サポートいたします。

もし、息切れ・咳・痰が長く続く、特に階段や坂道で呼吸がつらいと感じることが増えてきた場合は、ぜひ一度ご相談ください。これからの生活を少しでも快適にするために、私たちがお力になれれば幸いです。

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<参考情報>
・GLOBAL STRATEGY FOR PREVENTION, DIAGNOSIS AND MANAGEMENT OF COPD: 2025 Report
https://goldcopd.org/2025-gold-report/
・日本呼吸器学会「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン2022〔第6版〕」
https://www.jrs.or.jp/publication/jrs_guidelines/20220512084311.html

記事作成:
名古屋おもて呼吸器・アレルギー内科クリニック
呼吸器内科専門医・医学博士 表紀仁