咳止めの切り札「リフヌア」とは?—呼吸器内科医がやさしく解説

病院にかかっていろんな治療をしているけど、なかなか咳が止まらない……こんな状況の方はいらっしゃるのではないでしょうか?当院では咳の原因をしっかり調べ、原因に対して十分な治療を行うので、多くの方の咳は改善します。しかしながら、十分な治療を行っても咳がなかなか改善しない方もいらっしゃいます。例えば気管支喘息では、約5%の方が難治性喘息といってしっかり吸入治療や内服治療を行っても状態が良くならない方がいると言われています。
このように原因に対して十分な治療を行っても咳が改善しない場合、もしくは原因がはっきりせず咳が改善しない場合などに咳止め薬の切り札として使用されるのが「リフヌア」です。
ここでは「リフヌア」がどんな薬なのか、効果や副作用について分かりやすく解説したいと思います。
<リフヌアはどんな薬?>

咳反射は、気道上皮が刺激されるP2X3受容体を介して咳の神経(迷走神経:C線維)が活発化し「咳反射」が起こります。リフヌアはこの咳の感受性亢進のスイッチであるP2X3受容体をブロックし、この咳感受性亢進スイッチを落として咳の回数を減らす狙いの薬です。従来の咳止めとは全く異なるメカニズムです。
咳の感受性が亢進している場合は、気管支喘息の方の咳症状の改善が乏しく、入院や喘息発作の頻度が増えることが分かっています。1)
また咳感受性が亢進しているタイプの咳は、日中に多い傾向があることも分かってきています。2)
さらに、冷気、会話、香料・煙・粉塵、笑い、体位変換など「本来は咳を起こしにくい弱い刺激」で簡単に咳が出る時やのどがイガイガして咳が出る時には、この咳の感受性が亢進している可能性が高くなります。
そのほかにも胃のむかつきや胃もたれなど機能性胃腸障害を持つ場合、この咳の感受性が亢進することが分かってきています。3)
このように「咳の感受性亢進」はさまざまな咳の要因や病気に関わっていることがわかります。
この「咳の感受性亢進」は、病院の検査で調べることができません。「カプサイシン吸入試験」という検査方法で調べることができますが、研究段階で一般の病院では実施していません。そのため、咳の経過(治療の反応性など)や問診で絞り込んでいくしかないのです。
<どのくらい効く?>

過去の報告では、リフヌアによる治療開始後3か月後時点で、咳のひどさが18.5%改善したというデータがあります。
市販後のデータでは、咳が良く改善したという人の割合が25%程度で、まあまあ改善したという人の割合が26%程度であったというデータもあります。4)
リフヌアの効果は「回数・つらさを着実に下げる」タイプの薬であることが分かります。また一部の人の咳にはとても効果的な薬であることも分かります。
<安全性と副作用>

リフヌアの最大の副作用は「味覚障害」です。味覚障害は約63%程度で見られ、苦味、金属味、塩味の異常・味が分かりにくいなどの症状があります。「水を飲んだら苦かった」というような表現をされる方もいらっしゃいます。
この副作用の味覚障害ですが、薬を中止すれば必ず戻ります。薬の中止後、味覚障害が5日以内にほとんどが改善しているというデータもあります。
そのほかの副作用として悪心、口内乾燥、下痢、などが報告されています。
<どんな人に向いている?>
咳の治療は、原因をしっかり調べそれらに対する治療を行うのが基本です。
そのためリフヌアのよい適応となる方は、以下の通りです。
・咳の原因疾患(咳喘息、逆流性食道炎、肺気腫など)に対する治療をしっかり行っても咳が残っている方
・咳による日常生活の障害が大きい(会話・仕事・睡眠・外出を妨げる)方
・咳の原因ははっきりせず、咳が続いている方
(+味覚異常のリスクを理解・許容できる方)
リフヌアは原因療法(根治療法)ではなく対症療法です。まずはしっかり原因を調べ、その治療を行うことが優先です。それでも咳が改善せず、原因として「咳の感受性亢進」が考えられる場合にリフヌアによる治療を検討します。
<よくある質問(FAQ)>
Q1. どれくらいで効きますか?
- 個人差はありますが、臨床試験(治験)では数週〜数か月で評価しています。12〜24週時点で有意差(咳が改善)が示されており、早ければ初月からその効果を実感する方もいます。
Q2. 味覚が変だと感じたら?
- 最も多い副作用です。多くは軽度〜中等度で、継続中または中止で改善します。困ったらすぐ受診して医師に相談してください。
Q3. 腎臓が悪いと言われています。使えますか?
- 重度腎機能障害(透析なし)では1日1回に調整します。透析中は推奨用量が未確立ですので、主治医とご相談ください。
Q4. 妊娠・授乳中は?
- 慎重投与です(動物で胎盤・乳汁移行あり)。有益性>危険性の場合に限り検討します。
Q5. 価格は?
- 薬価は改定で変動しますが、一錠187円で、一日374円になります。保険診療で3割負担の場合、2週間使用すると1,570円程度になります。
<院長からのメッセージ>
リフヌアは—“原因治療が第一”、そのうえで咳症状改善を狙う選択肢です
リフヌアは「咳の感受性」を抑える初のP2X3拮抗薬として、咳の改善に効果が期待できる薬です。一方で味覚異常が比較的多い点、効果は「確実な減少」だが「劇的ゼロ」ではない点を理解し、患者様と目標を共有して治療を行うことが重要です。
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参考・出典
① Am J Respir Crit Care Med. 2020 May 1;201(9):1068-1077.
Increased Capsaicin Sensitivity in Patients with Severe Asthma Is Associated with Worse Clinical Outcome
https://www.atsjournals.org/doi/10.1164/rccm.201911-2263OC?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed
② J Investig Allergol Clin Immunol. 2019;29(1):30-39.
Independent Factors Contributing to Daytime and Nighttime Asthmatic Cough Refractory to Inhaled Corticosteroids
https://www.jiaci.org/summary/vol29-issue1-num1728
③ Allergol Int. 2023 Apr;72(2):271-278.
Functional gastrointestinal disorders are associated with capsaicin cough sensitivity in severe asthma
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1323893022001137?via%3Dihub
④ ERJ Open Res . 2025 Jul 7;11(4):01037-2024.
https://publications.ersnet.org/content/erjor/11/4/01037-2024
Real-world usage and response to gefapixant in refractory chronic cough
記事作成者
名古屋おもて内科・呼吸器内科クリニック 理事長 表紀仁
呼吸器内科専門医・医学博士
