睡眠時無呼吸症候群と咳の関係

「咳だけが何週間も続く」「夜〜明け方に咳が増える」「朝起きた直後に咳が出る」――このような咳の背景に、睡眠時無呼吸症候群が関与していることがあります。
睡眠時無呼吸症候群は、“いびき・無呼吸”の病気として知られますが、近年は長引く咳(8週以上続く咳)との関連も複数報告されています。
この記事では、睡眠時無呼吸症候群が咳を引き起こす仕組み、見分け方、検査・治療(CPAP含む)を、呼吸器内科医の視点で解説します。
SASが咳に関係する“根拠(データ)”
1)咳が長引く患者さんに睡眠時無呼吸症候群が多い
日本の報告では、慢性的に咳が続く患者さんを調べてみると…
- ・75人のうち44%に睡眠時無呼吸症候群
- ・そのうちCPAP治療で93%が咳の改善
といったデータがあります。
また、ほかの研究でも、睡眠時無呼吸症候群の患者さんで慢性咳が多く、CPAPで改善することが報告されています。これらのデータからも睡眠時無呼吸と咳は関連があることがわかります。
2)CPAPで咳症状が改善
慢性の原因不明咳嗽(>2か月)かつ睡眠時無呼吸症候群の患者さんを、CPAPとシャムCPAP(偽物のCPAP)に無作為化した試験で、6週間後に咳のQOL指標がCPAP群で有意に改善していました。シャムCPAPとは偽物のCPAPで、気道に十分な圧がかからないような仕組みになっています。
CPAP治療が咳を改善させるって、意外ですよね。
なぜ睡眠時無呼吸症候群で咳が出るの?(主なメカニズム3つ)
睡眠時無呼吸症候群と咳との関連性は、単に「太っているから」だけでは説明できず、複数の要因が重なって咳が長引きます。以下がその代表的な要因になります。
① 胃食道逆流が増え、喉が刺激される
無呼吸・低呼吸時には胸腔内陰圧が強くなり、胃酸が上がりやすい条件が揃います。また睡眠時無呼吸症候群の患者さんにCPAP治療を行うと胃酸の逆流が大きく減少しました。
→ 逆流が咳に関わっている方では、睡眠時無呼吸症候群の治療が“咳の引き金”を下げる可能性があります。
② 鼻づまり・口呼吸・乾燥(後鼻漏も)で咳が出やすくなる
睡眠時無呼吸症候群では鼻閉(鼻づまり)を合併しやすく、口呼吸が増えると咽頭が乾燥し、夜間〜起床時の咳が出やすくなります。また、鼻炎/副鼻腔炎に伴う後鼻漏(のどに鼻水が落ちる)は慢性的な咳が続く代表原因で、睡眠時無呼吸症候群と併存すると“治りにくい咳”になりがちです。
③ 喘息・咳喘息のコントロールを悪化させる
睡眠時無呼吸症候群は睡眠分断や炎症、自律神経の変化などを介して、喘息症状の悪化因子になり得ます。実際、睡眠時無呼吸症候群を合併した喘息患者さんで、CPAP導入後に喘息コントロールやQOL、肺機能が改善した報告があります。喘息の患者さんでは、「吸入はしているのに夜間症状が残る」「早朝の咳が強い」場合、睡眠時無呼吸症候群の関与を疑う価値があります。
気管支喘息や咳喘息に関する詳しい記事はこちら 「気管支喘息」・「咳喘息」
睡眠時無呼吸症候群が関係していそうな咳の特徴
次に当てはまるほど、咳の背景に睡眠時無呼吸症候群が隠れている可能性が上がります。
- ① 夜〜明け方に咳が増える/寝ると咳が出る
- ② 朝起きた直後に咳が出る、喉がイガイガする・声枯れ
- ③ いびきが大きい/家族に無呼吸を指摘された
- ④ 日中の眠気、集中力低下、起床時頭痛
- ⑤ 夜間頻尿(夜中にトイレ)
- ⑥ 胸やけ、呑酸(酸っぱいものが上がる)、喉の違和感
- ⑦ 鼻づまり、後鼻漏がある
- ⑧ 喘息/咳喘息の治療中なのに夜間症状が残る
検査:何をすればわかる?
自宅でできる簡易検査(まずはここから)
ご自宅で1~2晩計測し、無呼吸低呼吸指数(AHI相当)や酸素低下を評価します。装着方法も簡単で、忙しい方でも検査しやすいのが利点です。当院(名古屋おもて呼吸器・アレルギー内科クリニック)でも簡易検査であるアプノモニターを行っております。

精密検査(PSG:ポリソムノグラフィ)
必要に応じて、脳波・呼吸・心拍などを同時測定し、重症度やタイプを詳しく判定します。当院は在宅PSGを行っており、自宅で検査が可能です。
睡眠時無呼吸症候群の検査方法については詳細はこちら
治療:睡眠時無呼吸症候群を治すと咳は良くなる?
1)CPAP療法(中等症〜重症の標準治療)
CPAPは気道の閉塞を防ぎ、睡眠の質を改善することができ、睡眠時無呼吸症候群の代表的な治療方法です。
咳に関しては、慢性咳嗽×睡眠時無呼吸症候群でCPAPにより咳QOLが改善した研究結果があります。また、CPAPが胃酸の逆流を減らすことは多くの研究で示されています。。
※注意:CPAP開始直後は、乾燥・鼻炎で咳が一時的に増えることがあります。加湿設定やマスク調整、鼻治療で改善することが多いです。
2)生活指導(“咳”にも“無呼吸”にも効く)
- 就寝前の飲酒を控える(無呼吸悪化)
- 就寝2〜3時間前までに夕食(逆流・咳対策)
- 体重管理(特に内臓脂肪)
- 横向き寝(仰向けで悪化しやすい)
- 枕を少し高く(逆流・咽頭刺激対策)
3)咳の“合併原因”を同時に治療する
睡眠時無呼吸症候群だけでなく、胃酸逆流・後鼻漏・喘息/咳喘息が絡むことが多いため、咳が長引く場合は同時評価が重要です。
よくある質問(FAQ)
- Q. 咳が主症状でも睡眠時無呼吸症候群の検査をしていい?
A. はい。慢性咳嗽と睡眠時無呼吸症候群の関連や、CPAPでの改善を示す報告があります。咳の原因精査の一環として検討する価値があります。- Q. 逆流があると咳が出るのはなぜ?
A. 胃酸や胃内容物が食道〜喉を刺激し、咳反射が起きます。OSAでは陰圧などにより夜間逆流が増えやすく、CPAPで逆流が減った研究があります。 - Q. CPAPで咳が増えた…やめた方がいい?
A. 乾燥や鼻症状が原因のことが多く、加湿・マスク調整・鼻治療で改善しやすいです。自己中断せずご相談ください。
当院からのメッセージ
咳が長引くと「風邪が治らないのでは」と不安になりますが、実は睡眠時無呼吸症候群が関係していることがあります。夜〜朝に咳が強い、いびきや日中の眠気がある、胸やけや鼻づまりも気になる…そんなときは一度ご相談ください。当院では、咳の原因(喘息・後鼻漏・逆流など)を丁寧に整理しながら、自宅でできる睡眠時無呼吸症候群検査やCPAP治療まで一貫して対応しています。
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記事作成

名古屋おもて内科・呼吸器内科クリニック
呼吸器専門医・医学博士 表紀仁
参考文献
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