「咳や痰が長引く・血痰が時々でる・同じ肺炎を繰り返す」……それは気管支拡張症のサインかもしれません。気管支拡張症はさまざまな原因で起こり、血痰や肺炎などの感染の繰り返すためお困りの方も多いと思います。
ここでは原因から診断、治療薬まで専門医が要点だけを丁寧にまとめました。
目次
気管支拡張症ってどんな病気?
肺につながる空気の通り道を気管支といいます。気管支が長年の炎症や感染で傷み、元には戻らない形に広がってしまった状態が「気管支拡張症」です。広がった気管支には粘っこいたんが溜まりやすく、せきやたんが長引く・感染をくり返すという悪循環が起きます。
気管支拡張症で問題となるのは以下の点です。
①感染症を繰り返しやすい
気管支拡張症は、感冒や肺炎などの感染症を繰り返しやすいという特徴があります。肺炎などを繰り返し、抗生剤(抗生物質)の投与を繰り返すと今度は細菌が耐性化(抗生物質が効きにくくなる)するため注意が必要です。しばしば緑膿菌と呼ばれる治療が難しい菌が検出されることもあります。
②血痰や喀血(かっけつ)を繰り返すことがある
拡張した気管支の血管はもろく出血しやすいという特徴があります。風邪などの感染症をきっかけに血痰や喀血(かっけつ)が出ることがあります。出血量が少なく、痰に少し血が混じる程度であれば、自宅安静で様子を見ます。出血量が増える場合や痰全体が真っ赤にそまる場合は、入院して治療します。場合によっては、気管支動脈塞栓術というカテーテル治療を行うこともあります。
③根本的な治療が難しい場合が多い
気管支拡張症の原因が、非結核性抗酸菌症やカビ(アレルギー性気管支肺真菌症)などの場合は、治療によって部分的に気管支拡張が改善することがあります。しかし多くの場合、拡張した気管支をもとに戻すことが難しいのが実情です。この場合は、感染を繰り返さないよう内服や吸入薬で調整したり、痰や息切れなどの症状に対して吸入薬を使用することがあります。
よくある症状

気管支拡張症を疑うサイン・症状には以下のようなものがあります。
- 長引くせき(数か月〜年単位)
- たんが多い・色が黄色〜緑色になりやすい
- 朝にたんが出やすい/においが気になることも
- 血たん・喀血(たんに血が混じる/血を吐く)
- 息切れ、熱っぽさ、だるさ
比較的女性に多い病気です(約57-79%が女性と言われています)。
なぜ起こるの?主な原因
気管支拡張症の原因は以下のようなものがあります。
- ひどい肺炎や結核のあと(感染後)
- 痰を外へ運ぶ毛の働きが弱い:生まれつきの線毛の病気など
- カビのアレルギー(アレルギー性気管支肺真菌:ABPM)
- 喘息やCOPD(肺気腫)に合併する
- 非結核性抗酸菌症
- 関節リウマチ・シェーグレン症候群などの膠原病に伴って発症
- 間質性肺炎
- 原因不明

最も多いのは、「原因不明」で、次いで重症肺炎などの後に出る気管支拡張や、COPD・膠原病・気管支喘息によるものなどが多く見られます。
カビのアレルギー(アレルギー性気管支肺真菌:ABPM)で喘息を発症することがあります。この場合、胸部CTでは下記のような太い気管支が拡張する現象(中枢性の気管支拡張)が見られます。また粘液栓(ねんえきせん)と言って、気管支に痰が詰まっているような所見も見えることがあります。

参考文献:
Ann Am Thorac Soc. 2015 Dec;12(12):1764-70.
https://www.atsjournals.org/doi/10.1513/AnnalsATS.201507-472OC?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed
診断はどうやって進める?(問診・検査)
①胸部レントゲン・胸部CT検査
気管支拡張症は、胸部レントゲン・胸部CT画像で拡張した気管支が見られるか確認します。
胸部CTでは、丸い輪のように見える気道や、本来より太くなった気管支がわかります。広がった気管支が肺の血管より太いと、気管支拡張症を強く疑います。どの場所に多いかで原因の手がかりになることもあります。
また気管支拡張は見た目によって様々なタイプに分かれます。例えば、太い気管支が拡張する中枢性気管支拡張はカビのアレルギー(ABPM)による喘息で見られます。そのほかにも、間質性肺炎などでは牽引性(けんいんせい)気管支拡張が見られます。非結核性抗酸菌症による気管支拡張は、中葉や舌区などの部位に多く、まわりにつぶつぶとした粒状影(りゅうじょうえい)が見られることがしばしばあります。

②たんの検査
どんな菌がいるか、を確認します。結核菌や非結核性抗酸菌、緑膿菌、アスペルギルスなどのカビ、などを調べます。
③呼吸機能検査(スパイロメトリー)
気管支拡張症の原因として、気管支喘息や肺気腫(COPD)がないか調べます。息をどれだけ勢いよく吐けるかを調べ、息切れの原因を把握します。
基本の治療
①マクロライド少量長期療法

マクロライド系と呼ばれる抗生物質を通常よりも少ない量を長期間内服する治療方法です。この治療の効果は「感染などによる悪化(増悪)を減らす」ためです。過去の研究では、増悪を30~50%低下させる効果があると言われています。
一方で問題となるのは薬剤耐性菌です。過去の研究では、マクロライド系抗生物質12ヶ月間の治療の後に、88%から耐性菌が検出されたと報告されています。そのため耐性菌の増加は将来的な治療の選択肢を狭める可能性があります。
また日本では非結核性抗酸菌症が気管支拡張症でしばしば見られ、マクロライド系抗生物質が治療の重要な位置を占めることから、使用開始には注意が必要です。
②吸入薬
気管支拡張症の原因が、気管支喘息や肺気腫(COPD)などの場合は、吸入ステロイド薬や吸入気管支拡張薬が有効なことがあります。特に咳や痰、息切れなどの症状には効果的です。しかしながら、胸部レントゲンやCTで見られる気管支拡張そのものには効果があるとは限りません。
③リハビリテーション
気管支拡張症では、慢性的に痰が多く見られるため、排たんなどのリハビリテーションが有効なことがあります。
排たん(痰を出しやすくする)具体的なやり方としては、
- 力を抜いたゆっくり呼吸
- 胸いっぱいの深呼吸を数回
- 「ハッ、ハッ」と勢いよ・く息を吐いてたんを動かす(ハッフ)
などがあります。また歩くなどの運動をするだけでも痰が出やすくなります。
④血管を詰める治療(気管支動脈塞栓術)
血痰や喀血をくり返す場合は、血管を詰めるカテーテル治療(気管支動脈塞栓術)をおこなうことがあります。気管支動脈塞栓術は出血を止めるために出血している血管を詰める治療で、すべての方に適応があるわけではないため、治療前のCTで可能かどうか検討する必要があります。
よくある質問
治りますか?
広がってしまった気管支は元には戻りませんが、排たん・感染予防・吸入で症状は良くなることがあります。
運動はしてよい?
はい。排たんのあとに無理のない運動がおすすめ。息切れの強い日は短時間から。
加湿器は使った方がいい?
適度な湿度は◎。ただしカビが生えないように器具を清潔にしましょう。
気管支拡張症ではうまれつき肺が弱いのでしょうか?
気管支拡張症の方が“生まれつき肺が弱い”というわけではありません。多くの場合、大人になってからの感染(肺炎・マイコプラズマ・結核など)や、子どもの頃の感染、慢性炎症、気道の構造の問題などが積み重なって、気管支が広がって戻らなくなり発症する病気です。
一部には、先天的な(生まれ持った)免疫の弱さや遺伝的な病気(例:原発性線毛運動不全症など)が原因になることもありますが、これはごくごく少数です。つまり、ほとんどの患者さんは「もともと肺が弱い」のではなく、何らかのきっかけで気管支がダメージを受けた結果として発症します。
血たんが出たら?
安静にして、可能なら出血側を下にします。量が多い・息苦しいときは救急要請をしましょう。少量でもくり返すなら受診をたほうがよいです。
院長からのメッセージ
気管支拡張症は、咳や痰が続きやすく、感染を繰り返すことで生活の質が下がってしまうことがあります。しかし、適切な診断と日常的なケア、定期的なフォローアップによって、症状を改善させ、再発をある程度抑えることができる病気です。
当院では、呼吸器専門医による診察に加え、胸部レントゲン・肺機能検査・痰培養など総合病院レベルの検査体制を整え、原因の精密検査から治療、長期的な管理まで一貫してサポートしています。「咳が続く」「痰が増えた」「風邪の後に治りが悪い」といった症状は、早めに相談いただくほど改善しやすくなります。
気になる症状があれば、どうぞお気軽にご相談ください。
参考文献:
British Thoracic Society guideline for bronchiectasis in adults 2018
https://bmjopenrespres.bmj.com/content/5/1/e000348
日本呼吸器学会「気管支拡張症」
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/i/i-01.html
記事作成:
名古屋おもて呼吸器・アレルギー内科クリニック
呼吸器内科専門医・医学博士 表紀仁